外務省機密漏洩事件の犯人は弓成亮太

山崎豊子の原作小説「運命の人」の感想文です。このページにはあらすじやネタバレが含まれているので、閲覧にはご注意下さい。


このページは「運命の人のあらすじ」からの続きです。小説「運命の人」のモデルは「運命の人のモデルの一覧」をご覧下さい。
このページは、原作小説「運命の人」の4巻を含めた全巻の感想です。1巻から3巻までは、外務省機密漏洩事件を題材にしているが、4巻は沖縄県へテーマが移る。
外務省機密漏洩事件で逮捕・起訴された弓成亮太は、東京地裁で無罪を勝ち取ったが、控訴で懲役4月・執行猶予1年の有罪判決を受けた。
このため、弓成亮太は上告したが、最高裁はこれを棄却し、弓成亮太の有罪が確定した。その後、実家の弓成果青の経営が悪化し、弓成果青が九州青果に吸収合併されると、弓成亮太は死に場所を探すように、沖縄県へ移り住んだのだ。
九州青果が弓成果青を吸収合併する話しは、山崎豊子のギャグなのかと思って爆笑していまった。
さて、原作小説「運命の人」の4巻で登場するテーマは「ひめゆり学徒隊」「チビチリガマの集団自決」「アメリカ兵による女子小学生強姦事件」「密約に関する機密文書の発見」などである。いずれも実在の事件をモデルとしている。
あまり興味の無い事件もあるが、初めて知ったこともあった。第2次世界大戦中、沖縄へ来た本土の兵隊は、沖縄の方言が分からないため、沖縄の住民をアメリカのスパイと勘違いして殺していたそうだ。
明治時代に方言を禁止する「方言撲滅運動」と言うのが発生しており、沖縄県では、本土へ出た時のハンディを無くす為に昭和初期から「方言札」という札を使用し、方言を撲滅していた。
ところが、東京から学者が来て、方言を無くせば文化が無くなると言い、方言大論争が起きたそうだ。
その結果、沖縄県民はアメリカのスパイと間違われて、本土から来た兵隊に殺されてしまった。なんどもやるせない話しである。
4巻は「チビチリガマの集団自決」を取り上げているのだが、沖縄県民とはえば、具志堅用高・小島よしお・山田親太朗などしか思い浮かばないので、集団自決のイメージが湧かなかった。
女子小学生強姦事件では、琉球新聞の記者・儀保が女子小学生強姦事件を記事にした。このとき、儀保は女子小学生の将来を考え、詳しことがかけずに、曖昧な記事を書いた。
このシーンは、毎朝新聞時代の弓成亮太がニュースソースの秘匿を重視し、曖昧な記事でしか沖縄返還にともなう密約を追求できなかったシーンと重なった。
以前は、曖昧なニュースを読むと、「もう少しまともな記事は書けないのか」と思っていたが、山崎豊子の原作小説「運命の人」を読んでからは、曖昧なニュースを読むと、「何か記者としての葛藤が隠れているのだろうか」と思うようになった。
さて、原作小説「運命の人」の第4巻に琉球王朝が登場したため、お笑い芸人・小島よしおが「ひめゆり学徒隊」や「チビチリガマの集団自決」について、どのように考えているのかが知りたくなった。
小島よしお本人の話しによると、小島よしおは、琉球王国の第一尚氏王統・第2代目国王の尚巴志王の子孫であるらしく、芸名も当初は「小島よし王」にしようとしていた。
小島よしおの父・小島孝之は参議院選などに6度出馬して、全て落選している。6度も出馬するということは、何か政治に一言があるのだろう。
沖縄県では琉球王国を復活させて、日本から独立しようとする運動がある。琉球王家の正当な血筋を引いる小島よしおを琉球国王に即位させ、琉球王国を独立させれば良いのではないだろうか。
さて、4巻の最後で、琉球大学の教授・我楽正規が、アメリカで沖縄返還にともなう密約を交わした機密文書を発見し、弓成亮太が追求していた密約が存在することが明らかとなった。
密約の存在が明らかになったことによって、弓成亮太の名誉を回復したような印象になっていたが、名誉が回復する理由が分からなかった。
たしかに、裁判の争点となる国家公務員法100条に「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」と書いてあり、密約の有無によって「秘密」の解釈が変わってくる。
しかし、毎日新聞の記者・弓成亮太は、機密文書のコピーを社進党の横溝宏に渡したして目的外使用をしたうえ、ニュースソースの女性事務官・三木昭子を守れなかった。密約が存在していたとしても、その事実は変わらない。
弓成亮太のモデルとなる西山太吉は毎日新聞の記者で、原作小説「運命の人」の著者・山崎豊子も毎日新聞出身である。だからであろうか、弓成亮太は少し綺麗な印象で終わっている。
政治家や外務省職員は平気で嘘をつくのだが、毎朝新聞の弓成亮太だって、上司や妻にも嘘を平気で付いている。
また、外務省職員をブリパン(何も漏らさない人)と揶揄しているが、弓成亮太はニュースソースの秘匿を理由に何も話さないので、政治家も外務省も弓成亮太も同じ穴の狢だと思った。少し立場が違うだけだ。
毎朝新聞の弓成亮太はぬけぬけと嘘をつくため、弓成亮太の証言は信用できない。加えて、小平正良・安西審議官・弓成亮太の3人がつながってる噂があることを考えると、弓成亮太は佐橋総理を陥れるために、機密文書を社進党の横溝宏へ流したのだと思う。
その結果、弓成亮太のニュースソースが割れるなどの支障が出たため、弓成亮太は小平正良に切られたのではないか。そうだったら面白い、という期待を込めて、原作小説「運命の人」を読んだ。
1972年に実際に起こった外務省機密漏洩事件(西山事件)を考慮すると、原作小説「運命の人」の感想は今回書いた感想と変わってくるのだが、今回はあくまでも原作小説「運命の人」を1つの小説として読み、夏休みの読書感想文とした。
さて、毎朝新聞のモデルとなる毎日新聞は、1975年に会社更生法の適用を申請して倒産している。毎日新聞が倒産した原因は、西山事件にともなう不買運動が原因とされているが、オイルショックなどにともなう値上げの影響の方が大きいようだ。
発行部数を調べる第3者機関「日本ABC協会」などの資料によると、西山事件が発生した1972年の毎日新聞の発行部数は480万部前後で推移している。
西山事件で西山太吉が逮捕された1972年4月の発行部数も477万部をキープしており、西山事件の影響は確認できない。その後の発行部数の増減も誤差の範囲である。
ところが、1974年6月には485万部だった発行部数が、1974年7月には463万部まで落ち込んでいる。その後もジリジリと発行部数を下げて1995年12月には440万部まで落ち込んでいる。
1973年末にはオイルショックが起きており、それにともなう値上げなどが発行部数減少の原因のようだ。資料を見る限りでは、西山事件の影響は少なく、毎日新聞が倒産したのはオイルショックの影響が大きいようだ。
西山事件の影響は新聞社へのダメージよりも、週刊誌の売り上げを伸ばしたという印象が強い。週刊誌「女性自身」などは西山事件後に発行部数100万部を突破し、躍進している。
実際に起こった外務省機密漏洩事件(西山事件)については、別の機会に感想文を書くつもりなので、原作小説「運命の人」の夏休みの読書感想文はこれで終了し、次は登場人物のモデルについて書く。「運命の人のモデル」へ続く。

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