天皇の料理番-貞明皇后と秋山徳蔵の禿げ頭

TBSのドラマ「天皇の料理番」のモデルとなる秋山徳蔵の生涯を描く「実話・天皇の料理番のあらすじとネタバレ」の実話編「天皇の料理番-貞明皇后と秋山徳蔵の禿げ頭のあらすじとネタバレ」です。

このページは「天皇の料理番-秋山徳蔵の妻・秋山俊子が死去のあらすじとネタバレ」からの続きです。

秋山徳蔵の年表は「天皇の料理番・秋山徳蔵の年表」をご覧ください。

■天皇の料理番-貞明皇后と秋山徳蔵の禿げ頭
昭和10年(1935年)10月、貞明皇后が大膳寮の調理場を見たいと申し入れてきた。

日本には「男子厨房に入らず」という言葉があるように、偉い人は厨房に入らないという風習があり、皇室の方が大膳寮の厨房に入るのは、明治・大正・昭和を通じて、秋山徳蔵の知る限りでは、貞明皇后が初めてである。

このころ、秋山徳蔵は頭が禿げ上がっていた。帽子を被ったとしても、塵1つ、髪の毛1本でも料理に入ってしまえば、大変申し訳の無い事なので、料理人にとって髪はマイナス要素以外の何物でもない。

それは分っていたのだが、秋山徳蔵は禿げ上がった頭に残ったわずかな髪の毛を未練たらしく、ドイツで買ったブラシで手入れしており、大膳の名物となっていた。

しかし、尊敬する貞明皇后が大膳寮の調理場を見学に来るので、これを記念に秋山徳蔵は禿げ頭を丸坊主にした。

当日、貞明皇后は厨房用の白衣を着て大膳寮の調理場へやって来た。同じく、お付きの侍従や次官も厨房用の白衣を着ている。

さらに、貞明皇后は厨房に入る直前で立ち止まり、お付きの女官を差し招くと、女官は貞明皇后の足下に進み出て、真新しいスリッパを揃えて置き、貞明皇后は新しいスリッパを履いて大膳寮の厨房へと入ったのである。

料理人が厨房には居るとき、必ず身を清め、白衣に着替えて、厨房専用のスリッパを履いて厨房に入る決まりになっている。配膳を司る主膳も厨房に入るときは、供進靴(ぐしんぐつ)に履き替える。

もちろん、外部の人間もスリッパに履き替えなければならない。秋山徳蔵はどんなに偉い人でも、スリッパにスリッパに履き替えなければ、厨房に入る事を許さず、靴のまま厨房に入ろうとした片山内匠頭(かたやま・たくみのかみ)を叱り飛ばしたことがあった。

外部の人間は大膳の小さな決まりまでイチイチ知らないので、いざ厨房に入る際になって始めてスリッパが必要な事を知り、急いで人を走らせる事になるのが常である。

宮内省の役人ですら、厨房の規則を知らないのだから、貞明皇后が厨房の細かな規則を知るはずがない。にもかかわらず、貞明皇后は白衣を着て、新しいスリッパまで用意していた。

厨房の規則など知らなくても、食事を作る場所は清らかであるべき所なので、新しいスリッパを用意するのが、心の優れた人にとっては自然な行いであり、これが真心というものである。

秋山徳蔵はそう考えると、涙がこみ上げてくるのをどうすることも出来ず、貞明皇后に感じ入った。

厨房見学が終わった後、付き人が貞明皇后に「秋山徳蔵は貞明皇后を迎える為に、丸坊主にしたそうです」と教えると、貞明皇后は「それを知っていたら、帽子を脱がせてみたのに」と冗談を仰った。

■天皇の料理番-秋山徳蔵の珍酒
戦前の天皇は大膳が作ったものしか食べてはいけない決まりだったので、天皇の行幸には、天皇の料理番である秋山徳蔵も行幸に同行した。そして、天皇の行幸の前に、秋山徳蔵は、主膳監の野村利吉と下検分に出かけていた。

ある大演習で昭和天皇が行幸するとき、新しい厨房が出来たというので、行幸の前に秋山徳蔵と野村利吉が下検分に出かけた。

そして、2人が新しい厨房の下検分をしていると、軍人が土足のまま厨房に入った来たので、秋山徳蔵が「なんだ手前達は」と軍人を怒鳴りつけた。さすがの軍人も秋山徳蔵の権幕に驚く程であった。

しかし、秋山徳蔵は根に持つ性格ではないので、それが縁で軍人は仲良く成るという事があった。

さて、香川県の善通寺で大演習があり、昭和天皇が行幸したさい、天皇の料理番・秋山徳蔵が昭和天皇にお供した時のことである。

演習が無事に終わった日の夜、秋山徳蔵は中佐や少佐らと、大きな料理屋へ酒を飲みに行った。

あいにく座敷が埋まっていたので、秋山徳蔵らは階段の下で飲んでいると、主人が見かねて自分の部屋へ案内してくれたので、そこで本格的に飲み始めた。

ところで、軍人というのは役人を見下げており、宮内庁の役人などヘナヘナだと思っていたらしい。言うこと、なすことが傍若無人なのである。

そのうち、1人の少佐が前のボタンを明けて、チョメチョメを引っ張り出すと、チョメチョメを盃の中にしばらく浸した後、「さあ、飲め」と言って秋山徳蔵に盃を差し出した。

秋山徳蔵は黙殺してしまおうかと思ったが、「まてよ。何でも味わってみるのが俺の仕事だ」と思い直し、少佐から盃を受け取ると、一気に飲み干した。

秋山徳蔵は、珍酒を飲み終えると思い出したかのようにムラムラと腹が立ってきたので、「それが軍人のご馳走か。今度は大膳のご馳走をしてやろう」と言い、台所へ行くと、台所の番台に魚2~30匹が置いてあったので、秋山徳蔵は番台を抱えて部屋に戻り、魚を1匹ずつ軍人の頭の上に放り投げた。

軍人がいい加減に困っていると、秋山徳蔵は台所から米びつを抱えて来て、今度はしゃもじで飯をすくって跳ね飛ばし、軍人の顔や体にご馳走してやった。

すると、さすがの軍人も「もう分った。勘弁してくれ。今夜は宮内省の勝利だ」と敗北を認めたので、秋山徳蔵は勘弁してやった。秋山徳蔵が珍酒を飲んだのは、後にも先にも、この1度だけだった。

実話・天皇の料理番のあらすじとネタバレ実話編「天皇の料理番-秋山徳蔵の料理外交のあらすじとネタバレ」へ続く。

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