カッコーの巣の上で-時代背景のネタバレ解説

ジャック・ニコルソンが主演する映画「カッコーの巣の上で」(原作はケン・キージーの小説「One Flew Over the Cuckoo's Nest」)のあらすじとネタバレの解説付き感想文の時代背景のネタバレ解説編です。

映画「カッコーの巣の上で」のあらすじとネタバレは「カッコーの巣の上で あらすじと結末ネタバレ」をご覧ください。

■カッコーの巣の上で-解説
映画「カッコーの巣の上で」は「権力と自由の対立」と解釈されがちですが、1960年代に起きた精神医学の非人道的な治療を批判する「反精神医学」という運動を背景に、閉鎖された精神病院で行われている非人道的な治療を告発する映画です。

そこで、今回は映画「カッコーの巣の上で」の時代背景などを説明しながら、映画「カッコーの巣の上で」を解釈・解説していきたいと思います。

■タイトルの意味
映画「カッコーの巣の上で」(原題は「One Flew Over the Cuckoo's Nest」)のカッコーは「頭のおかしい奴」という意味(スラング)で使われており、「カッコーの巣」は精神病院という意味になります。

カッコーは他の鳥の巣に卵を産み付け、その鳥に子供を育ててもらうという習性があります。これを托卵(たくらん)と言います。

つまり、他の鳥の巣のなかにカッコーの卵が混じることになるので、精神病院と巣の中に主人公マクマーフィー(ジャック・ニコルソン)という異種が混じり込む事を意味します。

■カッコーの巣の上で-時代背景の解説
古来より、精神障害者は犯罪者のように扱われ、殺されたり、収容施設に入れられていました。当初の収容施設は宗教施設だったのですが、宗教施設は次第に精神病院へと変化していきました。

20世紀に入ると、精神障害者を隔離する施設の巨大化が始まり、障害者コロニーが主流になっていきました。

また、20世紀初頭に優生学(優生思想)が定着しました。優生学とは、ダーウィンの進化論から発展した思想で、人間も優秀な遺伝子(DNA)だけを残して進化するべきである、という思想です。

この優生学(優生思想)に基づき、精神障害者は欠陥品と認定され、精神障害者など一部の人間は子孫を残すのに相応しくないとして、断種法が制定されました。そして、断種法により、精神障害者などは強制的に避妊手術が施されました。

優生学(優生思想)は世界的に広まり、日本でも1940年(昭和15年)の断種を認める国民優生法が制定されています。

さて、第1次世界大戦や第2次世界大戦により、精神障害者は増加の一途をたどるのですが、精神病に対する有効な治療法はありませんでした。

1900年代の前半には、電気ショック療法・インスリンショック療法・熱湯療法などのショック療法が行われていました。ショックを与えれば、反動で精神病が治ると信じられていたからです。

そのようななか、ポルトガルの神経科医エガス・モニスが1935年に、精神病の治療法として、脳の前頭葉白質を切り取る「ロイコトミー手術」を考案し、その成果を発表しました。

ロイコトミー手術とは、側頭部に穴を開けてメスを挿入し、前頭葉の白質を削ぎ落とす手術です。

その発表を知ったアメリカのウォルター・フリーマンは、トイコトミー手術をアメリカに持ち込み、ロイコトミー手術を改良し、手術を簡素化した「ロボトミー手術」を考案しました。

当時は精神病の画期的な治療方法が無かったので、ロボトミー手術は「精神への手術」「心の手術」として絶賛され、世界各地へと広まっていき、アメリカでは1940年代にロボトミーの最盛期を迎えました。

インスリンショック療法は手間がかるので衰退していき、精神病の治療は電気ショック療法とロボトミー手術が主流になっていきました。

しかし、1950年代に向精神薬が開発されるようになると、電気ショック療法やロボトミー手術は批判されるようになり、次第に衰退してきます。

そして、1950年代から1960年代にかけて、「ノーマライゼーション」と「反精神医学」という運動が始まりました。

ノーマライゼーションとは、障害者と健常者が共存する社会を作るという運動で、反精神医学は精神科医による非人道的な治療を批判する運動です。

このようななか、1961年にジョン・F・ケネディが大統領に就任するのですが、大統領に就任したことが切っ掛けで、ケネディ家の秘密が明らかになってしまいます。

20年前、ジョン・F・ケネディには知的障害者の妹ローズ・マリー・ケネディが居り、妹ローズ・マリー・ケネディはかんしゃく持ちで暴れる事があったので、家族は困ってしました。

1941年、政治的な野心を持っていた父ジョセフ・P・ケネディは、妹ローズ・マリー・ケネディの存在が政治生命に傷を付けると考え、ローズ本人の承諾を得ずに、精神障害者が大人しくなると評判だったロボトミー手術を受けさせたのです。

しかし、ロボトミー手術は失敗し、妹ローズ・マリー・ケネディは2歳程度の知能になり、普通に歩くことも、普通にしゃべることも出来なくなってしまいました。

このため、父ジョセフ・P・ケネディは妹ローズ・マリー・ケネディを養護施設に隔離し、妹ローズ・マリー・ケネディが知恵遅れだったことも、ロボトミー手術を受けたことも秘密にしていたのです。

しかし、1961年にジョン・F・ケネディが大統領に就任したことを切っ掛けに、妹ローズ・マリー・ケネディが廃人となっていたことが発覚し、ケネディ大統領は大きな批判を受けます。

そこで、ケネディ大統領は批判をかわすため、精神障害者の施設を支援し、1963年に精神障害者に対する福祉政策「精神病及び精神薄弱に関する大統領教書」(通称「ケネディ教書」)を発表したのです。

このケネディ教書によって、精神障害者を大型施設(障害者コロニー)に隔離していた政策を転換し、脱施設化・脱入院化が始まるのですが、ケネディ大統領はケネディ教書を発表した年の11月に暗殺されたため、脱施設化・脱入院化は大幅に後退し、実際に脱施設化・脱入院化が始まるのは1960年代後半になってからです。

さて、1950年代に向精神薬が開発されるようになると、精神病の治療は向精神薬が主流になっていき、電気ショック療法やロボトミー手術は衰退していきました。

しかし、電気ショック療法やロボトミー手術は無くなりませんでした。電気ショックは言うことを聞かない患者への懲罰として使われ、ロボトミー手術は暴れる患者を廃人にして大人しくさせる為に使われるようになっていました。

一方、1960年12月に始まったベトナム戦争は長期化し、1975年4月まで続きます。そして、ベトナム戦後への不満から、1960年代の後半から1970年代にかけて、若者の間で、体制を批判するカウンターカルチャーが発生します。

こうしたなか、黒人による公民権運動「ブラック・パワー運動」、インディアンによる公民権運動「レッド・パワー運動」、精神病院の非人道的な治療を批判する「反精神医学」などが活発になります。

こうし状況を背景に、1962年に原作小説「カッコーの巣の上で」が描かれ、1975年にジャック・ニコルソンが主演する映画「カッコーの巣の上で」が制作されたのです。

カッコーの巣の上で-マクマーフィーとビリーの解説」へ続く。

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