「健康で文化的な最低限度の生活」の原作ネタバレ感想文

フジテレビのドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」の原作漫画の第1巻から第6巻までを読んだネタバレ感想文です。

原作のあらすじとネタバレは「健康で文化的な最低限度の生活-原作のあらすじとネタバレ」をご覧ください。

■「健康で文化的な最低限度の生活」の感想

漫画「健康で文化的な最低限度の生活」を読んだ。生活保護を担当する福祉保健部生活課(福祉事務所)で働くケースワーカーの義経エミルが主人公で、生活保護をテーマとした漫画だ。

生活保護とは、日本国憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対して必要な保護を行い、最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする制度である。

生活保護のことを詳しく知らなくても、新人ケースワーカー、義経エミルの成長とともに読者も生活保護の知識が得られるようになっているのだが、やはり漫画は説明不足になりがちで、詳しいところまでは分からない場合が多い。

例えば、私が読んでいて思ったのが、生活保護に関する同居と世帯分離だ。

第4巻に登場する高知県から来た老婆は、息子の部屋に住んでいた。生活保護は世帯単位で審査するため、老婆は収入のある息子と同居していると言う理由で、生活保護が認められず、施設に入ることで生活保護が認められた。

その一方で、義経エミルは、第6巻で、日下部欣也に世帯分離をすれば、日下部欣也は生活保護から外れるので、大学へも進学できると助言している。

日下部家が世帯分離で生活保護を受けられるのなら、第4巻に登場する老婆の場合も、世帯分離で、息子を生活保護の対象から外して、老婆の生活保護を認めるということもなのではないかと思った。

■リアルなのか?

私は生活保護も貰っていないし、生活保護を貰っている知人も居ないので、生活保護の実態を知らない。だから、漫画「健康で文化的な最低限度の生活」がどの程度リアルなのか、判断がつかない。

あくまでも漫画という媒体であり、生活保護の闇までは描けないと思うし、なんとなくだが、漫画には描けない行間の方が重要なのではないかと思う。

たとえば、第4巻で、子供の頃から父親から虐待を受けていた男性が、電車に飛び込もうとして病院に運ばれたのだが、この男性は手や銅を縛られてベッドに拘束されているシーンがある。

これは入院措置だとは思うのだが、ベッドで拘束されることと、漫画のタイトル「健康で文化的な最低限度の生活」のギャップに違和感を覚えた。主人公の義経エミルは、ベッドの拘束について、何も思わないのだろうか。

■生活保護の不正受給問題

生活保護の不正受給が大きく注目されのは、平成24年(2012年)に中堅のお笑い芸人(推定年収5000万円)の家族が生活保護を受給していた事件で、この芸能人家族の不正受給事件を切っ掛けに平成25年に生活保護法が改正され、不正受給が厳格化された。

(注釈:芸能人家族が不正受給をしていたことが切っ掛けで、不正受給が厳格化したのではなく、不正受給の厳格化を進めているときに、芸能人家族の不正受給が発覚したようだ。)

さて、平成29年(2017年)の生活保護受給者は163万8944世帯で、214万1881人。そのうち、不正受給は4万3938件で、不正受給率は世帯ベースで約2%となる。

そして、不正受給の内容の多くは「労働収入の無申告」で、46.1%を占めている。

漫画「健康で文化的な最低限度の生活」の第2巻で不正受給問題を取り上げており、隠れてアルバイトをしていた高校生・日下部欣也も、この「労働収入の無申告」にあたる。

日下部欣也がアルバイトを申告して入れば、基礎控除などで約半分が手元に残っていたのだが、日下部欣也はアルバイトを申告していなかったため、アルバイト代の約60万円が全額返還となった。

ただ、ここで問題なのは、日下部家のように悪意が無くても、「不正受給」にカウントされるという点だ。

不正受給の厳格化により、これまでは不正受給にカウントされていなかったケースが不正受給にカウントされるようになったため、平成24年を境目に、不正受給が急増している。

しかし、不正受給と判定された4万3938件のうち、告発等の措置が執られたケースは159件に過ぎない。

世間的に批判されるパチンコ問題なのだが、受け取った生活保護のお金は何に使っても良いので、パチンコや競馬に使うこと自体は問題にならないし、不正受給には当たらない。

パチンコや競馬で勝ったお金は収入と判定されるので、勝ったお金を申告しない場合は不正受給になるのだが、勝ったお金を正直に申告する人は少ないので、こういう不正受給の件数の実態は把握できない。

■不正受給の不服申立(審査請求)

義経エミルは、アルバイトの収入を申告していなかった日下部家を不正受給と判断して、アルバイト代の約60万円を日下部家に全額返還させる。

しかし、不正受給という判断は、あくまでも福祉事務所の判断であり、最終決定ではない。

福祉事務所の不正受給という判断に納得がいかないのであれば、生活保護受給者は不服申立(審査請求)を行うことが出来し、それでも判定が覆らなければ、裁判に訴えることが出来る。

たとえば、女子高生にわいせつな行為をして懲戒免職になった教師が、処分を不服として裁判を起こし、懲戒免職は重すぎるとして、懲戒免職が取り消される判決が出たこともある。

日下部家のケースはアルバイト代でギターやCDを購入していたので判断が難しいが、アルバイト代を教育関連に使用していた場合なら、裁判で不正受給という処分は取り消される可能性が大きい。

だから、義経エミルが本当に心の底から日下部家のことを心配するのであれば、日下部家に「不服なら審査請求が出来ますよ」と教えてあげればいいのだ。

しかし、そんなことを教えれば、福祉事務所のマイナスになるので、受給者に審査請求のことを教えるケースワーカーなどいないというのが現実だろう。

そう考えると、生活保護受給者を担当するケースワーカーと受給者の関係は、どういう関係になるのだろうか、と疑問に思う。

■ケースワーカーの本音?

主人公の義経エミルは、福祉事務所に配属されて早々、110世帯を担当することになっている。

漫画「健康で文化的な最低限度の生活」には書かれていないのだが、調べてみると、福祉事務所のケースワーカーは1人つき80世帯という標準値がある。

しかし、生活保護受給者は増加傾向にあり、義経エミルのように、標準値の80世帯を大幅に上回る世帯を担当しているのが現実のようだ。

だから、「水際作戦」と言って、生活保護の申請を阻止しようとしてトラブルを起こすケースワーカーも居る。

また、大阪府は生活保護に理解があるらしく、生活保護率は全国トップで3.31%となっているので、大阪行きの切符を渡して、大阪で生活保護を申請するように助言するケースワーカーも居るそうだ。

漫画「健康で文化的な最低限度の生活」の第1巻で、義経エミルの担当受給者が死亡したとき、同僚が義経エミルに「ここだけの話だけど、1ケース減って良かったじゃん」と言っている。

こういう、ちょっとした一言が、過度な負担を強いられるケースワーカーの本音なのかもしれないと思った。

■権利は主張した物だけに与えられる

生活保護の根拠は、日本国憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という条文にある。

ただ、国民に「権利」は等しく与えられていても、権利を主張しない者はその恩恵を受けることが出来ない。権利は主張してこその権利なのである。

しかし、この権利というのは不思議なもので、権利が無い者が声を大にして権利を主張し続けると、なぜか権利を与えられるのだ。

■生活保護の医療費問題

漫画「健康で文化的な最低限度の生活」の第6巻で、医師が、生活保護を受けているアル中の赤嶺岳人に、「治療費は100万円以上かかっている」と告げるシーンがある。

生活保護受給者は、医療費が無料で、この医療費が大きな問題である。平成29年(2017年)の生活保護費は全体で3.8兆円で、その半分は医療費なのだ。

不正受給は悪いことだが、金額で言うと不正受給は約170億円なのに対して、生活保護の医療費は約1.9兆円である。

生活保護で支給されたお金は何に使っても良く、アルコール中毒の赤嶺岳人のように、支給されたお金で酒を飲んだくれ、医療費を使いまくっても、不正受給にはカウントされず、合法なのである。

近い将来、生活保護費は5兆円に達するとみられており、確実に増税が待っている。増税、増税、また増税である。

国民感情的には不正受給を問題にしがちだが、金額ベースで言えば、医療費の方が遙かに大きな問題である。

もちろん、治療が必要な人は、必要な治療を受けるべきだと思うが、生活保護受給者が医療費が無料なので、病院側が儲けようとして必要ない薬まで処方したり、必要の無い手術をする過剰医療には厳格に対処しなければならないと思う。

生活保護を受けている患者は、ジェネリック薬品(後発薬品)の使用が原則化されるのだが、根本的な問題の解決になっておらず、あまり効果が無いように思う。

■生活保護の捕捉率

ある資料によると、貧困層のうち、生活保護を受けているの(生活保護の捕捉率)は約15%に過ぎない。残りの85%は生活保護受給者よりも貧しい生活をしており、そういう人は医療費も自己負担なので、病院にも通えない生活をしているという。

85%の人が生活保護を受けていない理由は色々とあるようだが、「水際作戦」と言って、生活保護の申請の阻止が行われており、生活保護を申請したくても出来ない人が居るそうだ。

生活保護はセーフティーネットであり、困っている人が等しく受けられるべきだと思うが、セーフティーネットはあくまでも一時的な避難所であるべきだと思う。

しかし、あるデータによると、生活保護から抜け出せた世帯は、受給者の1%以下で、残りの99%は生活保護から抜け出せないという。

■死刑と生活保護

漫画「健康で文化的な最低限度の生活」を読んで、漫画「モリのアサガオ」を思い出した。

漫画「モリのアサガオ」は、新人刑務官と死刑囚を描いた漫画で、日本の死刑制度をリアルに描いた社会派の漫画である。

私が生活保護のことを知って漫画「モリのアサガオ」を思い出した理由は、生活保護と死刑に「負のスパイラル」「負の連鎖」という共通点を感じたからである。

被害者遺族が加害者を恨んで報復すると、被害者遺族が加害者になり、加害者の家族がが被害者遺族になる。

被害者遺族が、加害者を恨んで報復すると、被害者遺族が加害者になり、また新たな被害者遺族を産むという「負の連鎖」が生まれる。

漫画「モリのアサガオ」の主人公・及川直樹は、こういう「恨みの連鎖」「負の連鎖」を断ち切るために、死刑を肯定している。

一方、生活保護の「負の連鎖」は何かというと、生活保護を受給する家庭は子供や孫が自立できず、子供や孫まで生活保護を受けるようになり、貧困層から抜け出せないという現象で、「生活保護の世襲」「貧困層の固定化」とも言われる。

生活保護の負の連鎖は大きな問題で、中には親子4世代にわたって貧困層から脱出できず、生活保護を受け続けているという家庭もあるそうだ。

生活保護の負の連鎖が発生する原因は、生活保護という制度に問題があり、その1つに大学への進学問題がある。

現在の制度では、生活保護を受けながら大学に進学することはできず、「世帯分離」で子供を生活保護から抜かなければ、大学に進学できない。

また、大学に入学するときに、生活保護の家庭は金銭的なハードルが出来るため、生活保護の家庭から大学への進学率は低くなっている。

そこで、生活保護を受けているから大学や専門学校へ進学すると、30万円の一時金が出るという制度が始まった。

漫画「健康で文化的な最低限度の生活」でも、この辺のテーマは今後、描かれてくるだろう。

生活保護という制度は、最低賃金との関係もあり、色々な問題があるのだが、全ての問題を解決するのは難しいので、とにもかくにも、「負の連鎖」を断ち切っていくことが重要だと思った。