新婚初夜の作法「床入り問答」「柿の木問答」の実話と解説
原作漫画「この世界の片隅に」で登場する「傘問答(床入り問答)」の実話のネタバレや解説です。
■「この世界の片隅に」の傘問答
原作漫画や映画「この世界の片隅に」の中で、祖母が浦野スズに結婚初夜の作法を教えるシーンがある。
向こうの家で結婚式を挙げたら、その日の夜に婿さんが「傘を一本持ってきた?」と尋ねるので、「はい。新な(にいな)のを1本持ってきました」と答えなさい。それで、婿さんが「さしてもいいかいの?」と言ったら、「はい」と答えなさい。
これは、新婚初夜の行為に前に行われた床入り作法の1つで、「床入り問答」と呼ばれるものである。
傘を使った問答なので「傘問答」と呼ばれ、広島県高田郡八千代町土師で実際に行われていた初夜の作法である。
そこで、今回は実話の「床入り問答」と、そのバリーションを紹介したい。
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■実話の「床入り問答」
昼に祝言を挙げるのは戦後に定着した習慣で、戦前の祝言は夕方から始まって夜通しで行われるのが一般的だった。
このため、祝言の2日目の夜が新婚初夜にあたり、夫婦は祝言の2日目の夜に床の間で盃を交わした後、「床入り問答」(詳しくは後記)を行ってから、行為に及んだ。
初夜の行為を覗くことが公認されていたようで、障子に穴を開けて覗くことが許されていた。大人だけではなく、子供たちも、障子に穴を開けて夫婦の初夜を覗いており、障子の穴が多いほど良いとされた地域もあった。
また、初夜を迎える夫婦と同じ部屋に親族の女性が入り、ついたての向こうで、夫婦の営みの音を聞いて確認する「音聞き」という風習もあった。
■実話の「柿の木問答」
「床入り問答」には様々なバリエーションがあるが、最も有名なのが柿の木を使った「柿の木問答」である。「柿の木問答」は全国的に広まっているらしく、地域によって多少の違いはあるが、概ね次のような会話が交わされた。
婿「貴女の家には柿の木がありますか」
嫁「あります」
婿「柿はよくなりますか」
嫁「なります」
婿「これから登って取って食べてもいいですか」
嫁「どうぞ食べてください」
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■実話の「傘問答」
「床入り問答」のバリエーションの1つ「傘問答」は、広島県高田郡八千代町土師で行われて風習で、新婚初夜に次のような会話が交わされていた。
婿「傘を1本持ってきた?」
嫁「はい。新な(にいな)のを1本持ってきました」
婿「さしてもいいかいの?」
嫁「はい。どうぞ」
「この世界の片隅に」でこの「傘問答」が登場するが、私が知る限りでは「傘問答」が行われていたのは広島県高田郡八千代町土師(広島県北部)だけである。
「この世界の片隅に」の舞台である広島県広島市江波と広島県呉市で、「傘問答」が行われていたかは分からない。
■実話の「便所問答」
「便所問答」は、秋田県雄勝郡東成瀬村で新婚初夜に交わされていた「床入り問答」である。
婿「貴女の家の便所には、コモは下がっていますか」
嫁「います」
婿「それなら縄が吊してありますか」
嫁「ありません」
婿「それは危ないですね」
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■実話の「栗の木問答」
「栗の木問答」は、宮城県栗原郡一迫町(宮城県栗原市一迫町)で交わされていた「床入り問答」である。栗原郡なので、柿の木ではなく、栗の木が使用され他のではないかと思われる。
婿「貴女の家には栗の木がありますか」
嫁「はい。あります」
婿「良い実はなりますか」
嫁「なります」
婿「それなら、私が上に登って振り落とすので、貴女は下で拾ってください」
嫁「どうぞ、登って振り落としてください」
■実話の「馬問答」
「馬問答」は、どこの地域で使用されていた「床入り問答」かは正確には分からないが、長野県下伊那郡に伝わる「床入り問答」と推定される。長野県は木曽馬の産地なので、柿の木ではなく、馬を使った問答になったのだと思われる。
婿「貴女の所に馬は居ますか」
嫁「1匹、飼っております」
婿「どこに飼っていますか」
嫁「探してください」
婿(首に手をやり)「ここに居るかな」
嫁「居ません」
婿(腰へ手を入れ)「それでは、ここかな」
嫁「そんな所にはいません」
婿(股へ手を入れ)「それでは、ここらに居るかな」
嫁「イヒ、イヒ、イヒヒン」と笑う
婿「馬が鳴いた。居た、居た。こんな所に居た。この馬に乗ってみることにする」
注釈:馬を「1匹」と表現するのは、原文が「1匹」となっているからである。
■「床入り問答」の考察と疑義
「床入り問答」は、結婚初夜の床入りの作法として、全国的に普及していたようでだが、口頭による伝承として受け継がれてきたため、文献に残っておらず、詳しいことは分からない。
全国的に「床入り問答」は、顔の知らない男女が結婚しても何を話して良いのか分からないため、話の切っ掛けにする目的で活用されていたようである。
恋愛結婚や顔見知り同士の結婚の時でも、「床入り問答」の作法が行われていたのかは不明である。
このような分野は研究は盛んではないため、どうして「床入り問答」という作法が生まれたのか、詳しい理由は分からない。
なお、「この世界の片隅に」の原作のあらすじとネタバレは「この世界の片隅に-原作のあらすじとネタバレ」をご覧ください。
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