山崎豊子の原作小説「運命の人」の感想

山崎豊子の原作小説「運命の人」のあらすじとネタバレを含んだ夏休みの読書感想文の感想編です。


原作小説「運命の人」のモデルは「山崎豊子の小説『運命の人』のモデル一覧」をご覧下さい。あらすじとネタバレ編は「山崎豊子の小説『運命の人』のあらすじとネタバレ」をご覧下さい。
山崎豊子の原作小説「運命の人」を読んだ。山崎豊子の小説を読むのは、原作小説「不毛地帯」以来である。
原作小説「運命の人」は、1972年に起きた「外務省機密漏洩事件(通称「西山事件」)をモデルにした小説である。
山崎豊子の小説はフィクションということになっているが、原作小説「運命の人」は西山事件をモデルにした小説であることは明らかである。
しかし、ここでは、モデルとなる西山事件のことには一切考慮せず、原作小説「運命の人」を西山事件とは関係の無い小説ととらえ、原作小説「運命の人」を読んだ感想を述べる。
原作小説「運命の人」は、山崎豊子が80歳を超えて連載を始めた小説である。年のせいなのだろうか、原作小説「運命の人」は面白いのだが、山崎豊子の小説の中では、どことなく生彩を欠いた感じがする。
原作小説「運命の人」を読んで、大きな疑問があった。それは、沖縄基地返還に関する日米の密約が悪い理由が明確になっていない点である。
原作小説「運命の人」は、沖縄基地返還にかんする密約が悪という前提で話しが進んでいる。しかし、密約を結ぶことが悪いことである理由が、分からなかった。
日本は、沖縄から撤退するアメリカに400万ドルの原状回復費用の支払いを求めた。しかし、アメリカは議会に日本への支払いを行わないと証言しており、首を縦に振らない。
そこで、日本は、アメリカに支払う3億1600万ドルに、400万ドルを上乗せした3億2000万ドルを支払い、アメリカは日本から受け取ったお金で原状回復費用400万ドルを支払う、という密約をアメリカと結んだ。
これが、沖縄返還に関する日米が交わした密約で、毎朝新聞の記者・弓成亮太が必死に追求している密約である。
日本は日本国民を騙してアメリカが支払うべき400万ドルを肩代わりすることになるのだが、原作小説「運命の人」を読む限りでは、それが悪いことだとは思えなかった。
佐橋総理は引退の花道を「沖縄返還」で飾り、後に佐橋総理はノーベル平和賞に選ばれる。確かに、佐橋総理がノーベル平和賞という名誉のために、沖縄返還を利用したとも考えられる。
しかし、アメリカは占領した沖縄県に大金を投資しており、投資を回収する目処がたたなければ、沖縄県を返還しなし、日本に対して1円も出さないことも決まっていた。
日本がアメリカへ払った3億2000万円は、「つかみ金」だった。「つかみ金」とは、詳細を問わない、大まかなお金のことである。
たしかに、お金の出所は国民の税金なのだから、「つかみ金」でアメリカが支払うべき費用を肩代わりすることは、密約は国民への背信行為になるかもしれない。
しかし、高度な政治技術において密約が交わされることもあるだろうし、迅速に沖縄が返還されることによって得られるメリットを考えれば、日本が密約によって400万ドルを肩代わりしても良いと思う。
外交は妥協点・落とし所を見つける作業である。アメリカはベトナム戦争で疲弊しており、1円たりとも日本に支払う気が無い以上、400万ルの肩代わりは、仕方が無いと思う。
沖縄返還問題と北方領土問題を同一視することは出来ないかもしれないが、密約によって日本が費用を負担したとはいえ、沖縄が迅速に返還されたことには評価できるのではないか。
それに、政治に透明性は必用だと思うが、ガラス張りにする必用は無い。「水清ければ不魚住」という言葉があるように、多少は不透明な部分も必要である。
小さな問題で毎回、首相や大臣がころころと変わるのではなく、多少の強引でも政策を進めて行かなくては、そのうちBRICs(ブリックス)と言った第3諸国に日本は追い抜かれると思う。
外務省機密漏洩事件は「知る権利」などの問題になるのだが、それは裁判になったからであり、毎朝新聞の弓成亮太の動機は「知る権利」など関係無く、スクープが欲しかっただけではないかと思った。「運命の人-感想の中編」へ続く。

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コメント欄

密約の何が悪いについてですが、
私は、日本が金を払うこと自体は、沖縄返還のメリットがあるので、なんら問題ないと思います。払えない程度の金じゃないし。
しかし、それほどのメリットがあるなら、日本が支払うことをちゃんと国民に公開すべきだと思います。逆に密約にすべき必然性が見出せないのですが。
本来密約にする必要性がないことを密約にするというのは、
政治の透明性、情報公開の観点から問題だと思います。
つまるところ、本来国民にとって必要性の無いことまで密約で進められているのではないかという、政治が国民の信頼を失うことになりませんか。

  • 投稿者-
  • 通りすがり

コメントありがとうございます。ご指摘の通り、日本は民主主義なので、政治は国民の監視を受け、透明であるべきだと思います。
そして、国民に説明し、国民の理解を得て、沖縄返還を実現するのが最も良い方法だと思います。

  • 投稿者-
  • 管理人

 エリツィン時代の疲弊していたロシア、お金で二島返還が可能な時があったと思う。それが、四島一括返還が原則であるとして、野党や世論を気にして、その話を蹴ったことがあったと思う。
 もし二島返還が実現していたら、今の北方領土の漁業問題等はずいぶん違った姿になっていたのではないかと思う。
 要は、恰好ばかりつけないで、お金で買おうが、密約であろうが、長期的な視点で国民の利益になることを実行する、その是非は歴史が判断するということでしょう。
 北方領土問題と比べると沖縄の佐藤栄作の手腕は光ったものがあったのではないかと思う。

  • 投稿者-
  • もうひとりの通りすがり

コメントありがとうございます。その通りだと思います。多少強引でも、2島返還を実現していれば、その後の交渉も変わっていたと思います。

  • 投稿者-
  • 管理人