「運命の人」の枝川清美と坂元勲のモデル
山崎豊子の小説・TBSドラマ「運命の人」に登場する枝川清美(ふせえり)と坂元勲(吹越満)の実在のモデルを紹介するページです。
枝川清美(ふせえり)のモデルは女性運動家の市川房枝で、坂元勲(吹越満)のモデルは弁護士の坂田治吉です。
2人のプロフィールについては以前にも紹介しているので、「枝川清美のモデルは市川房枝」や「坂元弁護士のモデルは坂田治吉」も併せてご覧ください。
■枝川清美(ふせえり)のモデル
枝川清美(ふせえり)のモデルとなった市川房枝は、「蓮見さんのことを考える女性の会」に参加し、外務省機密漏洩事件(西山事件)で起訴された女性事務官・蓮見喜久子を支援しようとしていた。
1972年(昭和47年)5月16日、市川房枝は蓮見喜久子を支援するため、弁護人・坂田治吉の法律事務所を訪れる。しかし、蓮見喜久子の所在は教えてもらえず、寄付金5万円やビラや手紙を坂田弁護士に預けて帰った。
実は、この「蓮見さんのことを考える女性の会」は社会党色のある団体だ。
1972年(昭和47年)4月4日に毎日新聞の西山太吉が逮捕された。そこで、社会党の田英夫らが中心となり、4月7日に「国民の知る権利を守る会」を発足した。
(注釈:田英夫は元共同通信の記者で、報道担当として第1次南極観測隊に参加していた人。ただし、越冬隊ではないので、南極で越冬はしてない。)
そして、1972年4月13日に開催された「国民の知る権利を守る会」の集会で、集会に参加していた主婦の谷民子が提唱し、4月18日に市川房枝らが中心となって「蓮見さんのことを考える女性の会」を発足した。
「蓮見さんのことを考える女性の会」は「国民の知る権利を守る会」から発生したことに加え、社会党の土井たか子・佐々木静子・望月優子・田中寿美子らも参加していることから、社会党色の強い団体になっている。
つまり、「蓮見さんのことを考える女性の会」=「社会党」と考える事ができる。
社会党といえば、西山太吉から譲り受けた外務省の極秘電信文を国会で示し、政府の沖縄密約を追求した横路孝弘が所属している政党だ。
「蓮見さんのことを考える女性の会」=「社会党」は蓮見喜久子を支援して、ジャンヌ・ダルクに仕立てようとしたのだが、失敗したとも考えられる。
「蓮見さんのことを考える女性の会」は蓮見喜久子の弁護士・坂田治吉が気に入らないらしく、次のように批判している。
「ああいう弁護人で蓮見さんに有利な弁護をしてくれるのだろうか。外務省から頼まれた外務省の弁護士さんじゃないんですか。あの坂田弁護士は警察出身だそうではありませんか」
■坂元勲(吹越満)のモデルは坂田治吉弁護士
坂田治吉は東京大学(東京帝国大学)の出身で、海軍の主計将校から警察を経て弁護士になった弁護士である。
通説によると、坂田治吉はカミソリの後藤田こと後藤田正晴の1年後輩で、外務省関係者が坂田治吉弁護士を蓮見喜久子側に紹介したとされている。
さて、弁護士の坂田治吉には謎が多い。実は、蓮見喜久子が上司の安川審議官に犯行を告白してから、逮捕されるまでに空白の時間があるので、どの時点で坂田治吉を弁護士に付けたのかよく分らない。
(蓮見喜久子が安川審議官に犯行を告白し、辞表を提出したのが1972年3月30日で、安川審議官が警察に告発したのが4月3日の深夜だった。そして、蓮見喜久子が出頭したのが4月4日未明だった。)
また、西山太吉が釈放されたが、蓮見喜久子は釈放されていない。不思議なことに、坂田弁護士は釈放の請求もしてない。これも謎だ。
坂田弁護士の法廷戦術だったのだろうか。蓮見喜久子は毎日新聞とは同調せず、起訴事実(逮捕された容疑)を争わなかった。
坂田弁護士は、起訴事実を争わず、全て認めていることが改悛(反省)している証拠である、と主張した。
蓮見喜久子は、市川房枝や社会党の議員からの支援を断った(見舞金30万円を受け取らなかった)ことなども法廷で証言し、これも改悛の現れただと主張している。
(蓮見喜久子が「蓮見さんのことを考える女性の会」についてコメントを紹介しようと思ったのだが、資料が見つからないので省略。)
このように、山崎豊子の小説・ドラマ「運命の人」は、蓮見喜久子VS社会党という視点からみると、沖縄密約問題とは違った面白さが味わえる。
ドラマ「運命の人」の登場人物の実在のモデル一覧は、『「運命の人」の実在のモデル』をご覧ください。
外務省機密漏洩事件(西山事件)については、「外務省機密漏洩事件(西山事件)の真相」をご覧ください。
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