ようこそ、わが家へ-意味と犯人ネタバレの感想文
池井戸潤の小説「ようこそ、わが家へ」のあらすじと犯人ネタバレを含むあらすじと犯人ネタバレ読書感想文の感想編です。
原作「ようこそ、わが家へ」のあらすじとネタバレ編は「ようこそ我が家へ-原作のあらすじと犯人ネタバレ」をご覧下さい。
このページには原作小説「ようこそ、わが家へ」のあらすじや結末のネタバレが含まれています。あらすじや犯人のネタバレを知りたくない人は閲覧にご注意ください。
■「ようこそ、わが家へ」の読書感想文
池井戸潤の小説「ようこそ、わが家へ」を読んだ。池井戸潤といば、TBSのドラマ「半沢直樹」の原作者として有名である。
私も池井戸潤が原作のドラマ「半沢直樹」「七つの会議」「ルーズヴェルト・ゲーム」「空飛ぶタイヤ」などを観たが、池井戸潤の原作を読むのは、今回の小説「ようこそ、わが家へ」が初めてである。
「ようこそ、わが家へ」は、主人公・倉田太一が電車で男性を注意したことから、自宅が様々な嫌がらせを受けるようになるストーリーで、「自宅への嫌がらせ」と「会社で起きたドリル在庫不足事件」とが平行して進んでいく。
途中で「チョンガー」(独身の男性を指す言葉)という言葉が出てきたので、「チョンガーは、今も意味が通じるのだろうか」と疑問に思う場面もあったが、全体的に読みやすい文章で3日で読み終えることができた。
■「ようこそ、わが家へ」のテーマ
「ようこそ、わが家へ」に登場する犯人は「名無しさん」と表現されており、「ようこそ、わが家へ」はインターネットの匿名性をテーマの1つにしている。
しかし、「ようこそ、わが家へ」はインターネットを批判しているのではなく、「インターネットが悪いのでは無く、人間が誰しもが持っている悪意が、たまたま匿名性を前提としたバーチャル世界で開花してしまったと考えるべきかもしれない」と問題定義している。
よく、インターネットを「バーチャル」、実社会を「リアル」と言って区別するが、私はインターネットも実社会も全てが「リアル」だと思う。インターネット上の世界は円実社会の一部に過ぎない。
インターネットを使うのが人間である以上、インターネット上の問題は全て現実の問題であり、結局は人と人との問題だと思う。
「ようこそ、わが家へ」の中で、インターネットで防犯ショップを調べて、盗聴器発見器を買いに行ったり、インターネットで本を注文したりしている。これはインターネットがバーチャルではなく、実世界の一部であることを表してると思う。
また、「逆恨み」というテーマも含まれていた。週刊誌の副編集長・赤崎信士は、倉田太一に電車で割り込みを注意されて逆恨みをし、テレビ番組の構成ライター田辺覚は息子・倉田健太に仕事を奪われて逆恨みをした。
「逆恨み」というのは非常に怖いもので、男性が電車内で女性を注意したところ、女性が逆恨みして警察に嘘の痴漢被害を訴えたという事件も実際に起きている。
■昔の暑さ
小説「ようこそ我が家へ」の中に「人間の記憶というのは往々にして美化されるものだが、子供の頃、東京の夏はもっとすがすがしく気持ちのいいものだった気がする。同じ暑さでも暑さの性質が違った」という一文がある。
果たして変わったのは、暑さの質だけだろうか。一説によると、犯罪発生件数は昔の方が多いが、近年は凶悪犯罪が増えているそうだ。昔は貧しかったので、貧しさからくる犯罪が多かったのだが、近年は動機の理解しがたい犯罪が増えてそうだ。
だから、変わったのは暑さの質だけではなく、犯罪の質や人間の質も変わっていっているのだと思う。それが良いか、悪いかは別にして。
■倉田太一についての感想
小説「ようこそ、わが家へ」の主人公・倉田太一は、小心者の小市民で、等身大の主人公で、非常に共感できた。
主人公・倉田太一はタクシー代がもったいないと言って歩いて帰ったり、自宅で嫌がらせ被害を受けたときは、バスになんて乗ってられるか、と言い、タクシーで帰ったり、非常に等身大で共感できる点が多かった。
そして、倉田太一はいつも真瀬部長に言い負かされていたが、最後は真瀬部長の恫喝にも動じず、真瀬部長の不正を暴いたので、溜飲が下ってスッキリした。
■妻・倉田珪子の感想
倉田家を襲うストーカー事件のおかげ、レザークラフト教室に通う妻・倉田珪子が貰った時計に盗聴器が仕掛けられている事を発見した。時計に盗聴器を仕掛けていた犯人は、レザークラフト教室の講師・波戸清治のようだ。
妻・倉田珪子は「何もなかったから」と不倫を否定している。しかし、私は、妻・倉田珪子は波戸清治と不倫をしていたと思う。
倉田太一も妻・倉田珪子が不倫をしていたと思ったから、不倫をしていた母親を思い出したように思えた。
■犯人の感想
倉田家にいたずらをしていた犯人は2人居た。1人は週刊誌の副編集長・赤崎信士で、もう1人はテレビ番組の構成ライター田辺覚である。
花壇を荒らしたり、瀕死の猫をポストに入れたりした犯人は週刊誌の副編集長・赤崎信士で、車に傷つけたり、タイヤをパンクさせたりした犯人はテレビ番組の構成ライター田辺覚だった。
田辺覚は、息子・倉田健太と同業で、息子・倉田健太に仕事を奪われたことを恨んでいた。そして、息子・倉田健太が自宅に嫌がらせ被害を受けている事を知り、その犯人(赤崎信士)に便乗して倉田家に嫌がらせをした。
ストーリー的には嫌がらせ事件の犯人として構成ライター田辺覚が逮捕されるが、嫌がらせ事件には真犯人が居り、その後、嫌がらせの真犯人として副編集長・赤崎信士が逮捕される。
田辺覚は便乗犯であり、真犯人が別に居るということで、推理小説の要素も入ってくるのかと思い、真犯人の正体を推理した・
私は、妻・倉田珪子が通うクラフト教室の教師で、妻・倉田珪子の時計に盗聴器を仕掛けた波戸清治が真犯人ではないかと予想して読み進めていたのだが、真犯人は週刊誌の副編集長・赤崎信士だった。
週刊誌の副編集長・赤崎信士はストーリーには登場しない人物で、会社での不正とも全く関係が無かったため、結末は少し物足りない気がした。
■等身大の出来事
「ようこそ、わが家へ」の中で起きた出来事は、全て等身大だった。倉田家への嫌がらせも、警察が積極的に動かない程度の嫌がらせだし、真瀬部長の不正の金額も、ナカノ電子部品が倒産するような金額ではなかった。
スリルや派手さという点では物足りないが、どこででも起きていそうな事件で、ちょっとした切っ掛けで、自分にも災難が降りかかってきそうな事件という点では、日常に潜む恐怖を上手く表現出来ていたと思う。
■タイトルの意味
原作小説「ようこそ、わが家へ」の帯に「タイトルの意味を知って、私は武者震いしました」という感想が書いてあった。タイトルにはどういう意味が含まれているのだろうか。
帯の感想を参考にしようと思い、「武者震い」の意味を調べてみると、「武者震い」は「戦いや重大な場面に臨んで、興奮のためにからだが震えること」と言う意味であった。一般的に、戦いや対決の前に勇んで身震いすることを「武者震い」というらしい。
したがって、帯に書いてある「タイトルの意味を知って、私は武者震いしました」は、「タイトルの意味を知って、私は戦う前に震えました」と言い換えることが出来るのだが、日本語として意味が通じない。
そこで、自分なりにタイトルの意味を考えることにした。その結果、私は原作小説「ようこそ、わが家へ」のタイトルには、2つの意味があるように思えた。
1つ目は、倉田太一は電車で赤崎信士を注意したことで、倉田家にストーカー被害を招いた、という意味である。
2つ目は、息子・倉田健太が犯人・田辺覚の仕掛けた盗聴器を逆手に取り、犯人・田辺覚に偽の家族旅行の情報を教え、犯人・田辺覚を倉田家へおびき寄せた、という意味である。
だから、「ようこそ、わが家へ」というタイトルは、ちょっとしたことで災いを招いた倉田太一が、家族で一致団結して犯人を退治し、成長する様子を表しているのだと思った。
■「ようこそ、わが家へ」の感想
池井戸潤の小説を読んだのは、「ようこそ、わが家へ」が初めてである。
池井戸潤の原作は色々とドラマ化されており、原作も気にはなっていたのだが、ドラマ「半沢直樹」を観た影響で少し池井戸潤の小説を敬遠していた。
ドラマ「半沢直樹」は高視聴率を記録して大流行したが、私はドラマ「半沢直樹」が苦手だった。
ドラマ「半沢直樹」はドラマ自体は面白かったのだが、主人公・半沢直樹が相手を土下座させシーンがダメどうしても苦手だった。私は相手に屈服させ、土下座をさせる事にカタルシスを感じないのだ。
相手を力でねじ伏せて土下座させるのは、水戸黄門が印籠を出して相手をひれ伏させるのとは少し意味が違うような気がする。
だから、池井戸潤の描く勧善懲悪は相手を屈服させる系なのかと思って、池井戸潤の小説を敬遠していたのだが、「ようこそ、わが家へ」を読んで池井戸潤に対するイメージが変わった。
「ようこそ、わが家へ」の主人公・倉田太一は犯人に倍返しも土下座も要求せず、最後に「できるだけ早く忘れて、普通の生活に戻りたいんです。もし、それが適うのなら他には望みません。その人のことも、できれば穏便に済ませてやってください」と言い、犯人を許したのである。
息子・倉田健太は犯人の正体を知って犯人に報復したが、報復は報復び、負の連鎖になるだけである。
怒る事は簡単だが、許すことは難しい。倉田太一は「池井戸潤作品で史上最弱の主人公」と言われているが、倉田太一は最弱の主人公でなどではなく、立派な主人公だと私は思った。
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コメント欄
はじめまして。
「ようこそ、わが家へ」のドラマを見て、さらには原作者が池井戸氏だったこともあり、興味を持ちました。
原作のあらすじを拝見したのですが、ドラマとは少し違うところがあるようですね。
確かにこれだけ有名な作者の作品であれば、多くの方が読んでいるでしょうし、ドラマの流れや結末も違うものにするのかもしれないと思いました。
原作のあらすじを読んで知ったのですが、「半沢直樹」のような、経済小説的要素も含まれているんですね。
私自身は、池井戸氏の作品のそういう部分が好きなので、ぜひとも原作を読んでみたいと思いました。
私の不勉強でしたらスミマセン。
【■倉田太一についての感想】の最後の一文
「誘因を下げる」ではなく「溜飲を下げる」では無いでしょうか?
■名無しさんへ
ご指摘ありがとうございます。誤字がありましたので、「溜飲」に訂正しました。
タクシー代が、もっいたいない になってますよ。
もったいない ですよー
■しるこちゃんへ
誤字のご指摘ありがとうございます。訂正しました。