アルジャーノンに花束を-解説と結末ネタバレ感想文

TBSのドラマ「アルジャーノンに花束を」の原作となるダニエル・キイスの小説「アルジャーノンに花束」のあらすじと解説と結末ネタバレ読書感想文の前編です。

このページには原作小説「アルジャーノンに花束」のあらすじと結末のネタバレが含まれています。「アルジャーノンに花束」のあらすじと結末を知りたくな人は、閲覧にご注意ください。

原作小説「アルジャーノンに花束」のあらすじと結末ネタバレは「原作小説「アルジャーノンに花束を」のあらすじとネタバレ」をご覧ください。

■「アルジャーノンに花束を」のネタバレ読書感想文
小説「アルジャーノンに花束を」はSF小説(サイエンスフィクション小説)だが、宇宙人やFUOや未来的なコンピューターが出てこない。

まるでヒューマン小説かと思うようなストーリーなので、私は小説「アルジャーノンに花束を」を読んで、初めは感動した。しかし、読み終えてから、次第に恐ろしいと思うようになった。

小説「アルジャーノンに花束を」に関しては、「面白い」「つまらない」「感動した」「泣けた」という内容の感想文が多いと思うので、私は「怖い」と感じた視点で解説を交えつつ、感想を書いてみたい。

■書かれた時代が重要
小説「アルジャーノンに花束を」を解釈するには、小説が書かれた時代背景をしっかりと知らなければならない。

ダニエル・キイスが最初に中編(短編)「アルジャーノンに花束を」を書いたのは、1959年である。そして、ダニエル・キイスは短編を改編し、1966年に長編「アルジャーノンに花束を」を発表した。

したがって、小説「アルジャーノンに花束を」は1950年代後半から1960年代前半の影響を受けていると考えられる。

後でも説明するが、精神障害者に対する隔離政策から、脱施設化・脱退院化へと変わる転換点が1963年の通称「ケネディ教書」からである。

小説「アルジャーノンに花束を」は精神障害者に対する福祉をテーマにしており、その背景に精神障害者隔離政策が存在することを認識しなければならない。

■主人公チャーリーと優生学
小説「アルジャーノンに花束を」は主人公が精神障害者チャーリーであることから、精神障害者の福祉を1つのテーマにしている事が分かる。

そこで、重要になってくるのが優生学(優生思想)である。優生学とは、生物学者ダーウィンの「進化論」が発展した思想で、人間を繁栄させるために優秀な遺伝子だけを残そうとする思想で、精神障害者の福祉と優生学(優生思想)は、切っても切り離せない関係にある。

猿が人間へと進化したように、人間もまた進化しなければならない。弱い種は自然界の中で淘汰され、強い種だけが残る。だから、人間も優秀な人間だけが種を残すべきであり、劣等な人間に種を残す資格は無い。

このような優生学(優生思想)が19世紀後半に世界中に定着し、優生思想は現在にも引き継がれている。たとえば、出産前にダウン症の検査をして、異常が見つかった場合に中絶する事が認められているのも、優生学の名残だとされる。

さて、20世紀初頭、優生学(優生思想)という概念を元に、IQ(知能指数)が提唱させれ、IQ(知能指数)は精神障害児を選別するために利用された。

そして、優生学(優生思想)を背景に、精神障害者は人間の欠陥品として大規模な障害者収容施設(障害者コロニー)に隔離され、精神障害者は障害者コロニーで生涯を終えた。障害者コロニーは、極めて劣悪な環境であったという。

また、精神障害者は子孫(DNA)を残すのにふさわしくないため、アメリカなど各国で断種法が制定され、精神障害者に強制的な避妊手術を行った。

さらに、第2次世界大戦時のナチス政権下では、優生学(優生思想)に基づき、精神障害者は人間として生きる資格は無いとして、大量安楽死を行うこともあった。

こうした精神障害者を隔離収容する政策が終わり、精神障害者の脱施設化が始まるのは、1963年にジョン・F・ケネディ大統領が発表した「精神病及び精神薄弱に関する大統領教書」(通称「ケネディ教書」)以降である。

また、1950年代後半から北欧で、精神障害者と健常者が共存する社会作りを理想とする「ノーマライゼーション」という思想が活発になり始めた。

「アルジャーノンに花束を」の中編が発売されたのは1959年、長編が発売されたのが1966年なので、精神障害者に対する福祉問題というのが、「アルジャーノンに花束を」の中には盛り込まれているのだと思う。

(注釈:「アルジャーノンに花束を」の時代背景については、「アルジャーノンに花束を-実話とモデルのロボトミー手術」をご覧ください。)

■チャーリーは人間だった
小説「アルジャーノンに花束を」で、ニーマー教授が国際学会で「チャーリーという人間を作った」と発表するが、チャーリーは「手術を受ける前から人間だった」と心の中で叫ぶシーンがある。

精神外科手術を受けたチャーリーは、天才になるにつれて性格も変化し、性格が悪くなってもチャーリーはIQが高いので人間と見なされた。

これは、IQが高ければ人間(善)であり、IQが低ければ精神障害者(悪)として見られていることを意味する。

つまり、人間(善)か精神障害者(悪)かを判断するのは、IQであり、IQが高ければ性格が悪くても人間(善)であり、IQが低ければ性格が良くても欠陥品(悪)として、扱われるのである。

たとえば、昨今、女性は女子力が大事だという風潮にあるが、女子力が高ければ善であり、女子力が低ければ悪なのだろうか。

また、女性は結婚相手の男性の条件に年収500万円以上をあげる人が多いが、年収500万円以上が善で、年収500万円未満は悪なのだろうか。

人間の幸せが、「IQ(知能指数)」「女子力」「年収」などといった単一的な指標によって決められて良いのだろうか。人間が人間たる所以において、そういった指標よりも、大切なものがあるべきだと思う。

■ウォレン養護学校の解説
小説「アルジャーノンに花束を」に精神障害者収容施設「ウォレン養護学校」が登場する。

現在の感覚で「養護学校」と言えば、「特別支援学校」「特殊学級」というイメージになるが、小説「アルジャーノンに花束を」に登場するウォレン養護学校は、障害者を隔離する大規模施設「障害者コロニー」に相当する。

第1次世界大戦や第2次世界大戦で精神障害者が急増したこもあり、障害者コロニーは劣悪な環境にあった。1部屋に数十人が押し込められ、不衛生だったので、病気も蔓延していた。

そして、障害者コロニーに入った精神障害者は、障害者コロニーで一生を終えるので、障害者コロニーは精神障害者の棺桶であり、精神障害者の墓場なのである。つまり、ウォレン養護学校は、チャーリーの棺桶であり、墓場なのである。

■衝撃の結末-用意されていたチャーリーの墓場
小説「アルジャーノンに花束を」の結末で、白痴に戻ったチャーリーは自分でウォレン養護学校に入ったと言うことは、自ら進んで墓場へ入ったという事を意味しているのである。

そして、恐ろしい事に、チャーリーの墓場は予め用意されていた。ニーマー教授は手術前から、人工的に増える知能は一時的だと知っており、手術同意書に、手術に失敗した場合、チャーリーをウォレン養護学校に入れる事を明記していたのである。

それを知ったチャーリーは「動物実験の動物のように、焼却されないだけマシか」と言っているが、チャーリーの人体実験はアルジャーノンの動物実験と同じレベルだと思った。

■チャーリーに行われた脳手術の解説
小説「アルジャーノンに花束を」の主人公チャーリーは、ニーマー教授らの精神外科手術によって高度な知能を得る。

小説「アルジャーノンに花束を」はSF(サイエンスフィクション)であり、精神外科手術によって高度な知能を得るという部分は架空の話である。しかし、チャーリーのような精神障害者の脳みそを手術していたことは実話だ。

1930年代後半に精神病治療として、脳の前頭葉を切断するロボトミー手術が考案され、「心の手術」として世界中でロボトミー手術が大流行した。

アメリカでは1940年代にロボトミー手術が全盛期を迎え、約5万の精神障害者がロボトミー手術を受けた。日本は1950年代にロボトミー手術の全盛期を迎え、数万人(多い説では12万人)がロボトミー手術を受けた。その結果、大勢の精神病者がロボットのような廃人になった。

ロボトミー手術を受けた最も有名な人物は、ローズ・マリー・ケネディである。小説「アルジャーノンに花束を」の主人公チャーリーの母親の名前が「ローズ・ゴートン」というのは、偶然なのだろうか。

ローズ・マリー・ケネディは、後にアメリカ大統領になるジョン・F・ケネディの妹だが、少し知恵遅れで、二十歳の頃からあ暴れるようになった。

政治生命に傷がつく事を懸念した父ジョセフ・P・ケネディが、1941年に医師の勧めを受け、精神障害者が大人しくなるとして話題になっていた脳外科手術「ロボトミー手術」をローズ・マリー・ケネディに受けさせたのである。もちろん、ローズ本人の同意は無い。

その結果、ローズ・マリー・ケネディはロボトミー手術に失敗し、2歳児程度の知能指数に落ち、普通に歩くことも、普通にしゃべることも出来なくなり、廃人となった。これは「ケネディ家の呪い」とも呼ばれている。

父ジョセフ・P・ケネディは廃人となったローズ・マリー・ケネディの存在を障害者施設へ入れ、ローズ・マリー・ケネディの存在を秘密にした。

しかし、ジョン・F・ケネディが1961年(昭和36年)にアメリカ大統領に就任すると、秘密にしていた廃人ローズ・マリー・ケネディの存在も明らかになってしまった。

さらに、医師が日記などを調査したところ、ローズ・マリー・ケネディは知恵遅れでも精神病でも無かった事が判明する。

このころ、1950年代に向精神薬「ソラジン」が開発されて精神疾患の治療は、向精神薬が主流になりつつこともあり、脳を手術するロボトミー手術は批判されるようになっていた。

そういう経緯があるため、ジョン・F・ケネディ大統領は大批判を受けた。そこで、ジョン・F・ケネディ大統領は批判をかわすため、精神障害者に対する福祉を勧め、1963年(昭和38年)に障害者に対する福祉政策「精神病及び精神薄弱に関する大統領教書」(通称「ケネディ教書」)を発表したのである。

このケネディ教書が、精神障害者を障害者コロニーに隔離する隔離政策から、脱入院化・脱施設化へ変わる転換となった。

しかし、ジョン・F・ケネディ大統領は1963年(昭和38年)11月に暗殺されたため、精神障害者に対する福祉は大きく後れをとった。

なお、暗殺されたジョン・F・ケネディ大統領は頭を撃たれて脳を損傷して死亡しており、ケネディ家の呪いと噂された。

ダニエル・キイスが小説「アルジャーノンに花束を」の長編を発表したのが、1966年(昭和41年)なので、「アルジャーノンに花束を」を十分に理解するためには、こうした社会背景を理解する必要があると思う。

アルジャーノンに花束を-意味と結末ネタバレ読書感想文」へ続く。

スポンサードリンク

コメントを投稿する

コメントは正常に投稿されていますが、反映に時間がかかります。