湊かなえ「リバース」のネタバレ読書感想文

藤原竜也が主演するTBSのドラマ「リバース」の原作となる、湊かなえの小説「リバース」のあらすじとネタバレ読書感想文です。

原作「リバース」のあらすじと結末ネタバレは「湊かなえの原作『リバース』-あらすじと犯人のネタバレ」をご覧ください。

このページには、原作小説「リバース」のあらすじや結末のネタバレが含まれてします。閲覧にご注意ください。

■湊かなえの小説「リバース」の感想文

湊かなえの小説「リバース」を読んだ。湊かなえの小説を読むのは「Nのために」や「夜行観覧車」以来だ。小説「リバース」は、久しぶりに湊かなえの小説で、面白かった。

特に結末が良かった。全てが最後の2ページのための布石だったのではないかと思うような結末だった。なるほど、「リバース」のタイトルはよくできてると思った。

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■リバースの深瀬和久はスタバ君

1990年代、バブルの崩壊後も華やかさを保っていたころ、女性は「ボディコン」という体のラインのクッキリした服を着て、ディスコの「お立ち台」に登って、扇子を振り振り、お尻を振り振りして踊っていた。

1991年(平成3年)に織田裕二の主演ドラマ「東京ラブストーリー」や武田鉄矢の主演ドラマ「101回目のプロポーズ」が放送されており、トレンディードラマが全盛期だったころである。

この頃の女性は、電話一本で駆けつける下僕のような男性を数人抱えており、女性に食事をおごるだけの男性を「メッシー君」、女性を車で送るだけの男性を「アッシー君」、家電製品の配線を接続するだけの男性を「繋ぐ君」などと呼んでいた。

メッシー君は女性に食事をご馳走するだけ。アッシー君は車で女性を送るだけ。繋ぐ君は家電製品の配線を接続するだけの役割であり、女性とそれ以上の関係には発展できない。

しかし、アッシー君やメッシー君は、女性から与えられた役割に自らの存在価値を見出し、喜んで「メッシー君」「アッシー君」「繋ぐ君」などになり、電話一本で千里を駆け抜けて女性に尽くし、その役割を終えると帰って行くのである。

私は小説「リバース」を読んで、リバースの主人公・深瀬和久はバブル期の男性の象徴ではないかと思った。

当時、コーヒーを入れるだけの男性を「スタバ君」「ドトール君」と呼んだかどうかは知らないが、私はコーヒーを作る事だけに存在価値を見出す主人公・深瀬和久を「スタバ君」「ドトール君」だと思った。

作者の湊かなえは、1973年(昭和48年)生まれなので、ちょうど20代の時に1990年代を経験している。

もしかしたら、湊かなえもボディコンを着て、ディスコで、扇子を振り振り、お尻を振り振りしており、コーヒーを作るだけの「スタバ君」「ドトール君」が居たのかもしれないなどと、妄想しながら小説を読んだ。

■広沢由樹の感想

広沢由樹は、深瀬和久の初めての親友だ。「由樹」の読み方は複数あるのだが、広沢由樹の読み方は「ひろさわ・よしき」と読む。

女優に松下由樹(まつした・ゆき)という人が居た。「由樹」は女性も使用する名前なので、「実は広沢由樹は女だった」という性転換オチがあるのではないかと思っていたが、普通に広沢由樹は男性だった。

さて、広沢由樹は頼られると断らなかった。をして、全てを自分が受け止めるキャラクターだった。

広沢由樹は、みんなから頼られる存在だったのだが、本当は頼ってくれる人を必要としていた。

古川大志や深瀬和久が広沢由樹を必要としたように、広沢由樹も古川大志や深瀬和久が必要だったのである。

深瀬和久がコーヒーに自分の存在意義を見出していたように、広沢由樹も「人から必要とされる」という事に存在意義を見出していたのだろう。

私は、湊かなえの小説「リバース」を読み終えたとき、広沢由樹を形の変わる器だと思った。

水は形を自由に変えられるので、どのような器にでも収まる。広沢由樹は、この反対で、どのような物でも収められる「水で出来た器」だと思った。

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■広沢由樹は蕎麦アレルギー

結末のネタバレで明らかになるのだが、広沢由樹が崖から転落した原因は、蕎麦の蜂蜜入りコーヒーを飲んだ事によって引き起こされた蕎麦アレルギーだった。

広沢由樹が崖から転落したのは、お酒を飲んでいたからでもなく、運転が未熟だったからでもなく、天候が悪かったからでもなく、深瀬和久が作った蕎麦の蜂蜜入りコーヒーを飲んだ事が原因だった。つまり、広沢由樹を死に至らしめた真犯人は深瀬和久だったのである。

小説「リバース」の中では詳しい説明は無いが、広沢由樹は蕎麦アレルギーによって、運転中にアナフィラキシーショックを起こし、崖から転落したのだろう。

ところで、私は、湊かなえの小説「リバース」を読んで不思議に思った。どうして、広沢由樹は、蕎麦アレルギーの事を深瀬和久に話さなかったのだろうか。

広沢由樹が深瀬和久らに蕎麦アレルギーだと申告しておけば、こんな事故は起きなかったし、セミ仲間を苦しめることも無かった。

ハードカバー版「リバース」の161ページに、村井隆明・浅見康介・深瀬和久の3人が、駅のホームから突き落とされた谷原康生の部屋に行くシーンがある。

このとき、村井隆明は、谷原康生のために牛丼を買っていくのだが、谷原康生の嫌いな紅ショウガを抜いた牛丼を買って行った。

つまり、ゼミ仲間は、嫌いな物や食べられない物について認識しているので、広沢由樹が蕎麦アレルギーについて申告していても不思議では無いし、申告できる機会もあったはずである。

にもかかわらず、広沢由樹はゼミ仲間に蕎麦アレルギーについて申告していない。不思議である。どうしただろうか。

これはおそらく、広沢由樹は、頼られる事に自分の存在価値を見出していたため、ゼミ仲間に弱みを見せられなかったのではないか。

弱みを見せる事は、すなわち、頼りがいの無い事を意味しており、それは自分の存在価値を否定することになるのではないか。私は、そう解釈した。

ところが、彼女・越智美穂子は、広沢由樹が蕎麦アレルギーで蕎麦を食べられないことを知っていた。

これは何故だろうかと考えてみると、広沢由樹は彼女・越智美穂子に対して自分から連絡先を渡している点が大きいと思う。

頼られる事に存在価値を見出していた広沢由樹が、自分から彼女・越智美穂子に行ったということは、彼女・越智美穂子に対しては別の価値観を見出していたのではないか。

だから、広沢由樹は、彼女・越智美穂子には蕎麦アレルギーを打ち明けられたのだと思った。

■タイトル「リバース」の意味

私は湊かなえの小説「リバース」を読んで、このタイトルの本当の意味は何だろうかと思った。

私が解釈した限りでは、タイトル「リバース」には2つの意味が含まれていると思った。

1つ目は、「遡る」という意味である。

深瀬和久は、大学4年生の時に初めて広沢由樹に出会い、人生で初めての親友となった。

しかし、深瀬和久は、出会う前の広沢由樹について何も知らず、広沢由樹を知るため、実家の愛媛県を訪れ、地元の友達に会って話を聞いた。

つまり、タイトルの「リバース」には、深瀬和久が広沢由樹の過去を遡る、広沢由樹の人生を遡るという意味が含まれているのだと思う。

2つ目は、「反転する」という意味である。

深瀬和久らゼミ仲間4人は、広沢由樹に飲酒運転をさせたため、広沢由樹がかけから転落して死んだと考えていた。

しかし、結末のネタバレで、広沢由樹は蕎麦の蜂蜜を入れたコーヒーを飲み、蕎麦アレルギーを起こしたため、崖から転落して死んだ事が判明して、事件の真相が反転した。

私は、告発文を送った犯人が彼女・越智美穂子だと早くから気づいていたので、「今作のリバースはイマイチだな」「湊かなえも大したことないな」「どこがイヤミスの女王だ」と勝ち誇った心境で結末を読んでいたのだが、最後の2ページで綺麗に全て、ひっくり返されてしまった。

オセロゲームで終盤まで黒が圧勝していたのに、最後の一手で全て白になってしまったような結末だった。「あっけにとられる」「狐につままれる」という言葉がピッタリの結末だ。

そもそも、小説「リバース」は、犯人を推理する事がミスリードであり、私は終始、湊かなえの手のひらの上で踊らされていたのだと思った。

小説の結末に、これほどの衝撃を受けたのは、私が昨年、友達から推理小説を借りて読んだとき以来だ。

友達から借りた推理小説の帯に「犯人は2人居る。衝撃の結末が」と書いていたので、私は犯人を推理しながら読んだ。

途中で犯人の1人は分かったのだが、2人目の犯人が全く分からない。2人目の犯人は共犯なのか、黒幕(真犯人)なのか、全く予想が出来なかったので、終いには犯人の予想を諦めて結末まで読み進めた。

ところが、小説を読み終えても、犯人は1人しか出てこない。読み落としたのかと思って、何度か読み直したが、やはり、犯人は1人である。共犯も黒幕(真犯人)も居ない。

しかし、小説の帯には「犯人は2人居る」と書いてある。

それで、色々と調べていると、判明したのだが、この帯は別の小説の帯だったのである。友達が私を騙すために、別の小説の帯を着けていたのだ。

だから、なんど読み直しても、犯人が2人居るはずがないのだ。

私は帯の取り替えトリックを知って「やられた」と思ったのだが、湊かなえの小説「リバース」の結末も、それくらい「やられた感」があった。

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■リバース-結末とその後

深瀬和久は彼女・越智美穂子に3年前に広沢由樹が死んだ事を告白したあと、彼女・越智美穂子とは距離を置いていた。

深瀬和久は、彼女・越智美穂子が広沢由樹の交際相手だったことを知り、彼女・越智美穂子と再会するが、彼女・越智美穂子は3年前の事故の真相を暴こうとしていたわけでは無かった事が判明する。

その結果、深瀬和久は彼女・越智美穂子と一緒に広沢由樹のノートを埋めていくことになり、結末で彼女・越智美穂子と復縁した。「深瀬和久はその手に自分の手を重ね、きつく握りしめた」と書いてある。

ただ、問題は、最終回の結末で、広沢由樹の死因が蕎麦アレルギーだったと判明した後だ。

深瀬和久は自分の作ったコーヒーで親友・広沢由樹が死んだと分かったあと、彼女・越智美穂子とそのまま交際を続けたのだろうか。

色々な解釈が成り立つだろうが、私は、深瀬和久は親友・広沢由樹の本当の死因を秘密にしたまま、彼女・越智美穂子との交際を続けたと思う。

なぜなら、深瀬和久は親友・広沢由樹が蕎麦アレルギーだったことを知らなかったからだ。

親友・広沢由樹が蕎麦アレルギーを秘密にしていたのだから、深瀬和久だって蕎麦の蜂蜜で親友・広沢由樹を殺害してしまったことを秘密にしても良いと思う。

それに、「秘密にするけどゴメンね」と謝れば、親友・広沢由樹は許してくれると思う。なぜなら、親友・広沢由樹は、頼まれれば、断れない性格だからだ。

たぶん、深瀬和久は彼女・越智美穂子と順調に交際を続けて結婚し、子供が男の子なら「由樹(よしき)」、女の子なら「由樹(ゆき)」と名付けるのではないかと思った。

■もし「リバース」が、こんな結末だったら

広沢由樹「コーヒー豆屋の奥さんが急に綺麗になりましたね」
深瀬和久「そうだね。後家さん(未亡人)になったからね」

広沢由樹「後家さんになったら、綺麗になるんですか?」
深瀬和久「そりゃ、女性は後家さんになったら、色気が3割は増すよ」

広沢由樹「良いこと聞いた。僕の嫁さんも後家さんにしたろ」
深瀬和久「蜂蜜入りのコーヒーできたよ」

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